名もなき植物に宿る島時間を日本画で描き続けた10年。 余韻ラジオ
丸亀市のさぬき広島に暮らす、日本画家の斉藤茉莉さん。東京で日本画を学んでいた大学院時代に瀬戸内の島に滞在制作したことをきっかけに移住し、島暮らしをしながら制作を続けています。
斉藤さんが作品のモチーフに選ぶのは、島に生息する名もなき植物たち。芽吹き、伸び、絡まり合う姿に「時間の流れ」を見出し、日本画の繊細なタッチで淡く鮮やかに描き出します。
島を歩けば心惹かれるモチーフが溢れている――そんな豊かな島時間が与えた制作への影響や、お気に入りの風景、島の人たちとの何気ない日常のエピソードなどを教えてもらいました。
作品はアートギャラリーから、お話に登場したスポットはしまれびマップの黄色いピンからご覧ください。
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島暮らしのアナウンサー
まな


島暮らしのアナウンサー
まな
横浜出身。学生時代に訪れた瀬戸内国際芸術祭をきっかけに島に惚れこみ香川に移住・瀬戸内海放送に入社し、島のアート・伝統文化・生活など幅広く取材。2024年春から念願のプチ島暮らしを開始。
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さぬき広島在住
斉藤 茉莉さん


さぬき広島在住
斉藤 茉莉さん
東京出身の画家。大学院の日本画コース在学中、全国の美大生が丸亀市の離島で滞在制作を行う「HOTサンダルプロジェクト」に参加したことをきっかけに島に魅了され、2016年にさぬき広島へ移住。島に生息する植物を題材に“時間”をテーマに描いていて、国の伝統的工芸品・丸亀うちわや島の特産品のパッケージなどにもデザインされている。 インタビューはこちら
植物の間を穏やかな風が吹き抜ける――描きたいモチーフに囲まれた、島ならではの制作。
東京出身の斉藤さんと島との出会いは、大学院で日本画を学んでいたときに参加した「HOTサンダルプロジェクト」。全国の美大生が丸亀市の離島で滞在制作をする取り組みで、斉藤さんは丸亀市の小手島(おてしま)でひと夏を過ごしました。
「プロジェクトを終えると東京に帰って大学で修了制作を描いていたんですけど、どうしても島での制作が楽しかったなと思って、『島に住んでみたいな』とポツンと言ったらそれを先生が聞いていてくださって。じゃあちょっと紹介してあげましょうかと、島に移住した卒業生と繋いでくださいました」
とんとん拍子で小手島のお隣のさぬき広島の住まいを紹介してもらい、卒業後すぐに移住。これまで東京を拠点に植物をモチーフに描いてきた斉藤さんにとってさぬき広島は、道を歩けばたくさんの描きたいモチーフに出会える、制作にぴったりの環境でした。
「やっぱり街中だとどうしても人の手が入って管理されて、名もなき植物は刈られちゃうんですけど、島では色々な植物が絡まり合っているところにすごく魅力を感じます。何か1枚絵を描こうって思うと、まず近所を散歩して歩き回って、2~3日とかで描きたい場所に出会うまで徘徊して。さぬき広島に約10年住んでいると、だんだんこの季節にはこの植物がどこに咲くっていうのが分かってくるので、そろそろあそこはこんなふうになっているはずだ!と探すことが最近は多くなってきました。よく下を向いてしゃがみ込んで探しているので、通り掛かった島の人は一瞬ちょっと怪しんだあと“ああ、なんだ茉莉ちゃんか!”と」
さまざまな造形の植物が絡まり合うジャングルのような様子がお気に入り
そんな斉藤さんが、さぬき広島の植物を通じて描き出すのは、“時間”です。
「植物って時間の経過ごとに、木だったら高さが高くなりますし、枝が伸びるとその分長さが長くなっていく……そういうふうに“時間が可視化”されているものだと認識をしていて。例えば赤ちゃんが生まれた時に庭に木を植えて、子どもの成長と同時に木の成長も見つめるように、絵を描かない人も、植物を通じて季節や時間の経過を感じたりしますよね」
“植物を通じて時間を描く”ということ自体は、東京にいたころから変わらない大切なテーマ。ただ、さぬき広島で暮らす中で色使いや制作過程に変化が生まれたといいます。
「大学院を卒業をする時は本当に和紙に墨だけのモノクロの絵を描いていたんですけど、やはり東京と光の感じが違うのか、植物の生命力に圧倒されたのか、だんだん色が入って鮮やかになってきたと思います。植物を描くにあたって、東京にいると電車に乗って時間かけてまず探しに行くのにすごい時間がかかるんです。なので描きたい気持ちを維持するのが大変だったりはするんですけど、島だと徒歩2分のところに描きたいものがもう有り余るほど、描ききれなくて困るぐらいあって。描きたい!と思ったら家にスケッチブックを取りに行って、また戻って描くといったことができるのは、描き続けていくモチベーションの維持にもなっているなと思います」
今回、しまれびに向けて、斉藤さんのお気に入りの景色を描いていただきました。選んだ場所は、港から歩いて5分ほどの「江の浦海水浴場」の景色。お気に入りの植物「シュロ」の葉の隙間から、穏やかな瀬戸内海と、さぬき広島沖のシンボル的存在である石造りの灯標「波節岩灯標」が夏の風を運びます。
「水面のしるべ」
「何かの隙間から何かを見る、という構図が好きで。手前にあるシュロも好きな植物の一つです。この場所は近所なので、ちょっと行き詰った時とかにとりあえずここに景色を見に行くのですが、毎日毎時間全然違う雲の形だったり面白い船が立っていたり、潮の満ち引きなんかを見ることができて。絶対に同じ景色っていうのがない、そんな瞬間に出会えるところがすごく好きなんです。今回は夏の景色を描いていますが、冬は冬で空気が澄んでいてすごく綺麗なので冬もオススメです」
冬の江の浦海水浴場の様子。遠浅の海岸沿いにシュロの木が並び、風になびく。
10年の間に出会ったお気に入りの景色はまだまだたくさん。自然豊かなさぬき広島はハイキング好きにも人気で、弘法大師空海が修行したといわれる「心経山(しんぎょうざん)」や、塩飽諸島の最高峰「王頭山(おうとうざん)」など絶景に出会える山々がそびえます。
「江の浦海水浴場はもちろんですが、山の上から見た瀬戸内海もやっぱりきれいです。ちょっとずつ標高が上がってくるにつれて、また植物とかも変わってくるんですよね。それを見ながら、だんだん遠くの水平線が上がってきたりとか、それが見えるのはとても好きです。」
東京からさぬき広島に来たことで、制作だけではなく暮らしにも変化があったといいます。
「暗くなったら寝て、明るくなったら起きるっていう生活になりましたし、皆さんが作られている野菜や、アケビ、お魚など旬のものをいただくことが多く、すごく贅沢な暮らしをしている気がします。魚釣ったから!とドサドサといただいたり、家に帰ったら玄関前に野菜が置いてあったり……。
仲良しのおっちゃんたちがいて、ある日突然玄関に来て『茉莉ちゃーん!ヤマモモ取りに行こーう!』と。『いーいーよー!』と言って、長靴を履いて麦わら帽子かぶって山へ行きました。私が木の下でパラソルをひっくり返して、おっちゃんたちが木を揺らすとヤマモモが傘の中にババババっと落ちてきて、みんなで分け合って食べて……仲良しのおっちゃんや皆さんに助けられますね。みんなが関わってくださってありがたいなと思います。」
さぬき広島に暮らす斉藤さんだからこそ描ける、島の時間。今では、絵画はもちろん、国の伝統的工芸品・丸亀うちわのデザインやお土産のパッケージ、さぬき広島の「尾上邸」の案内図など制作活動の幅が広がっています。
「いろいろな人とつながって、いろんなジャンルのお仕事をいただいて、自分のやったことのないことをさせてもらえるというのはすごくありがたいです。普段は植物を描いていますが、今回しまれびの作品で風景を描いてみて、風景もある意味“時間”というものを表現することができるなと思ったので。こうしなきゃいけないっていうところから、自分の表現方法などいろいろなことに挑戦をしてみたいなと思っています」
豊かな島の自然の中で、たくさんの植物が芽吹き、季節を告げる。その色合いや造形を繊細に描き出した斉藤さんの作品には、島に流れる時間が映し出されています。
斉藤さんの作品はしまれび公式ウェブサイトの「アートギャラリー」ページで、お話に登場したスポットは「しまれびマップ」のページでご覧ください。
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