暮らして奏でてみつけた、アートの先にある直島の楽しみ方。 余韻ラジオ
美大時代に直島を旅し、のちに移住して島を代表する家族音楽ユニットを結成した映像ディレクターの女性に、直島の楽しみ方を伺いました。現代アートの聖地と称され、国内外の観光客で溢れる直島で、旅を一層豊かにする島時間を感じるコツとは。お話に登場したスポットは、しまれびマップからご覧いただけます。
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島暮らしのアナウンサー
まな
島暮らしのアナウンサー
まな
横浜出身。学生時代に訪れた瀬戸内国際芸術祭をきっかけに島に惚れこみ香川に移住・瀬戸内海放送に入社し、島のアート・伝統文化・生活など幅広く取材。2024年春から念願のプチ島暮らしを開始。
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直島在住
福島 真希さん
直島在住
福島 真希さん
北海道出身。学生時代から直島を中心に島々を旅し、映像ディレクターの仕事を経て2018年に家族で関東から直島に移住。音楽プロデューサーの夫の福島節さんと娘の渚ちゃんとともに、直島や瀬戸内をテーマにした曲を制作・演奏していて、真希さんは作詞のほかサヌカイトを使った演奏も担当。直島への移住希望の方のサポートも行っている。 インタビューはこちら
10年以上観光客として通い続けた直島に移住。アートの先にある、島の魅力とは。

2018年に家族で東京から移住してきた、映像ディレクターの福島真希さん。直島に出会ったのは瀬戸芸が始まる前、美大生の頃でした。
「2004年にできた地中美術館が美大生の間で話題になっていたんです。それで、青春18きっぷで乗り継ぎながら来たのが最初の直島との出会いです。島に着いて感じたのは、本当にこんなのどかな場所に現代美術館があるの⁉っていうことでした。それで、港の近くで沿道アシストのついていない自転車を借りて、汗だくになって坂を上がって、やっと着いたと思ったら休館日! 事前に調べていなかったんですよね。予定を変更してベネッセハウスミュージアムに行って、余った時間は海で遊んで帰ったんですけど、そのときの瀬戸内海の美しさがすごく印象的だったんです。自分の知っている海とは砂や波の感じが全然違うし、まるで湖のような凪の海をはじめて見て、なんて美しいんだろうと思ったのを覚えています。翌年、ちゃんと開館日を調べて地中美術館を見に行きましたよ。その後、瀬戸内国際芸術祭が始まってからも毎年来ていました。なんだか、夏休みが始まる頃になると『直島が呼んでいる』って思うんですよね。働き始めて忙しくなってからも、仕事が終わってから夜行バスで来て、一泊だけしてまた夜行バスで帰るようなハードスケジュールで来たこともありました」
そんな福島さんが直島への移住を決めたのは、子育てがきっかけでした。
「直島は大好きでしたが、東京でバリバリ働いていたこともあって移住をリアルに想像したことはありませんでした。でも東京で子育てを始めたら、すごく窮屈に感じてしまって。電車に乗ると迷惑そうな顔をされるし、移動するだけでも大変だし、道を歩くと自転車がすぐ横を走って危ないし。そんなときに、『あ、直島がある』って思い出したんです」
島に住むようになってからは、瀬戸内国際芸術祭で島を訪れた外国人観光客にも積極的に話しかけていると福島さんは言います。
「本当にいろんな国から来ているんですよね。話を聞いているとすごく面白いんですよ。先日話したのは、ドイツから1人で来ていた観光客。砂浜でのんびりしているところに話しかけたんですが、地中美術館しか行っていないと言うので、家プロジェクトも素敵だよとか、ベネッセハウスミュージアムも近いよと教えてあげたんです。そしたら『地中美術館がすごくよかったから、今回はその感動だけ持って帰りたい。ほかの美術館はまた次に来たときに行くよ』って言うんです。すごく素敵な時間の使い方ですよね。ついつい時間内にできるだけ多くの施設を見たいって詰め込んでしまうけど、たくさん見ると一つひとつの印象が薄れるし、滞在時間も短くなるから、そうやって一つの作品や施設をじっくり味わうって素晴らしいなと思いました」
島を訪れる観光客との会話にも刺激を受けているという福島さん。島めぐりをするならぜひ島に泊まってほしいと話します。
「最後の船が出て観光客が帰ったあと、島のおばあちゃんたちがゆっくりと家から出てきて井戸端会議を始める光景がとても愛おしく感じます。それに泊まりの観光客も、船が出ていくのを見送ったあと、港の前の広場でのんびりしたり、缶ビールを飲んだり、写真を撮ったりして思い思いに過ごしていて。その空気感がすごくいいなと思うんです」
映像ディレクターとして活躍する福島さんに、島のおすすめビューポイントを教えてもらいました。
「地中美術館から宮ノ浦港に行く坂道からの景色。夕方、夕日を見ながら美術館側から自転車で下るのが最高に気持ちいいです。それから本村の海の方にできた直島コーヒーというカフェ。オーシャンビューで、ついつい長居してしまう居心地のいい場所です」

ただ景色が素晴らしいだけでなく、タイミングによってはそれをひとり占めできるのも島ならではだそう。
「安藤忠雄さんの『桜の迷宮』という作品があるんですが、桜の時期はもうこの世とは思えないくらいきれい。ゴールデンウィーク前くらいに満開になるんですけど、めちゃくちゃきれいなのに朝ウォーキングで立ち寄ったりすると誰もいないんですよ。満開の桜があるのに人が誰もいないなんて、都会では考えられないですよね。風が吹いて花びらが散っている景色も本当にきれい。不思議の国に迷い込んだような気分になりますよ」
福島さんいわく、島の住民はみんな多才。本業とは違う顔を持っていたり、隠れた特技を持っていたりと、「面白い人のオンパレード」だと言います。
「多分、人の数が少ない島だからこそ、なんでもできる多才な人が多いのかなと思います。自分自身が旅行客として来ていたときは、あまり島の人と話す機会がなかったから、こんなに面白い人ばかりとは思いませんでした。最近は岩田耕平さんというフォトグラファーが移住してきたんですが、島内をあちこち回りながら写真を撮ってくれるサービスをしているんです。自撮りよりもずっと素敵な写真が残せるからおすすめですよ」
島に住んでいる人と交流するためには、時間に余裕を持つことも大切です。
「予定していた場所に行くだけではなく、イレギュラーなことが起きても楽しめるように、時間に余裕を持っておくといいですね。以前、地域で流しそうめんをしていたとき、そうめんを多く用意しすぎて余ってしまったんですよね。そしたら参加者の一人が『誰か連れて来るわ』と言って、旅行で来ていた女子大生を2人連れてきたんです。その子たちはきっと『直島でそうめんを食べたよね』って、ずっと覚えていると思うんです。そういう偶然の出会いや何気ないふれあいが、島旅の魅力だと思います」