世界で輝く切子作家が小豆島で見つけた創作の原点 余韻ラジオ

小豆島と徳島に工房を構える、切子作家の石川啓二さん。IT企業のサラリーマンから切子作家へ――働きながら切子の技術を学ぶ日々を経て、いまや世界的なデザインコンテストでも輝きを放ち続けています。緻密で繊細な技術が光る作品の数々に映し出された、小豆島ならではの豊かな島時間。島がもたらすインスピレーションやお気に入りの風景、創作の原点を聞きました。お話に登場したスポットは、しまれびマップの黄色いピンをご覧ください。

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    島暮らしのアナウンサー

    まな

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    小豆島と徳島の二拠点生活

    石川 啓二さん

徳島と小豆島、二拠点生活がもたらした、新たな視点と創作へのインスピレーション。

フェリーに乗って、海が見える島の工房へ。

「現在、月の半分は小豆島、半分は徳島という感じで行ったり来たりしながら切子を制作しています」と話すのは、切子作家の石川啓二さん。オリーブ畑が広がる高台にある自宅兼工房で、話を聞きました。
「もともとは妻のお友だちに小豆島好きの方がいて、妻もよく一緒に来ていたんです。それで先に妻が気に入って、私も一緒に遊びに来るようになりました。最初に来たときは、とにかくワクワクしていたのを覚えています。フェリーで食べたうどんもおいしくてね。島に着いたら海沿いを走る道が本当に気持ちよくて。すごく癒される島だなという印象が強かったですね」
そうして何度か小豆島を訪れるうち、ここにも工房を構えたい、ここで制作したいという気持ちが強くなり、2021年に自宅兼工房をオープン。二拠点生活がスタートしました。
「島が持っているエネルギーって結構あると思うんですよね。小豆島も徳島も、自然豊かで山も海もありますが、徳島だとちょっと車を走らせて海や山へ行かなきゃいけないのに対して、小豆島はどちらもすぐそこにある。徳島は横の広がりがあって、小豆島は上下の高低差に豊かさがある、そういう違いを感じますね」
そんな石川さんが思う小豆島の魅力の一つにオリーブがあります。
「食べるのも好きですけど、やっぱり木が好きですね。オリーブの木って独特じゃないですか。葉っぱの色も、いわゆる緑っていう色じゃなくて少し淡い、シルバーのような色。あの感じが好きなんです。だから海が見えてオリーブ畑が広がるこの場所はとても気に入っています」

企業戦士だった会社員時代から「毎日が平日」のセカンドライフへ。

『清流(Limpid Stream)』

石川さんが切子と出会ったのは、定年を1年後に控えていた頃。当時住んでいた東京で、江戸切子の工房に通って技術を身に着けました。
「当時はまさに企業戦士という感じで、夜遅くまで残業することも多かったですね。仕事が終わってから通える工房を見つけて、カットの技術を教わりました。切子にはカットの工程の後に『磨き』という工程があって、この『磨き』が、時間もかかるし技術も必要なんです。でも工房ではカットだけを教えてもらったので磨きは自分でインターネットなどで調べて独学で勉強しました」
その後、2019年に奥さんの実家がある徳島へ戻り、切子の工房「KJ工房」を立ち上げた石川さん。2021年にイタリアの世界的なデザインコンテストに切子ガラスを出品したところ、見事ブロンズ賞に輝きました。この年に出品したのは『清流(Limpid Stream)』と名付けられたデザインで、徳島を流れる川のイメージで制作したもの。その後も毎年このコンテストに出品・入賞していますが、2025年にシルバー賞を受賞したのは『オリーブの輝き(Brilliant Olive)』というデザインでした。
「徳島と小豆島、二拠点で制作する影響は大きいと思います。たとえば徳島は水がきれいなところなので水をイメージしたデザインが多く生まれるし、小豆島ではオリーブをモチーフにしたものを作りたいという思いが出てくる。毎月、行ったり来たりするたびに、なんとなく自分の中でもモードが切り替わる感じがします」

『オリーブの輝き(Brilliant Olive)』

多忙だった会社員時代を経て、今は自分の好きなことに没頭し時間を使う毎日。周囲からは「いい老後ですね」と言われるそうですが、石川さんの考えはちょっと違うようです。
「よく『毎日が日曜』という言い方をしますが、私はむしろ『毎日が平日』と感じています。毎日新しいこと、自分の好きなことに挑戦できるという感じですね。今が人生のセカンドライフだとしたら、その次のサードライフ、フォースライフに向けてどんどん進んでいけたらと思っています」

毎日の暮らしのなかで感じる自然の豊かさ、四季の移ろい。

いつも小豆島に一緒に来ている愛犬たちとの散歩コースについて教えてもらいました。
「近くに小豆島オリーブ公園があって、その周辺を朝と夕方に散歩しています。朝は、ギリシャ風車からさらに上がったところにある展望台からの眺めがきれいなんですよ。オリーブ公園は桜の名所でもあるので、春は満開の桜のなかを歩いて、秋は秋でモミジが真っ赤になって。朝からエネルギーが充填される感じですね」
二拠点生活を始めて4年が経ち、島の人たちとの親交も深まってきました。
「島で唯一の酒蔵、小豆島酒造さんが毎年3月に開催している新酒祭には毎年出店しています。店内のブースで切子グラスを展示販売しているんですが、そういう場所でお客さんと直に話すと、いろいろな意見が聞けて参考になりますね。ほかにも、島内のワイナリーのオリジナルグラスを作ったり、近所のカフェでも私の作品を使ってもらったりしています」

小豆島での暮らしと制作を楽しんでいる石川さん。今後作りたい作品や挑戦したいことを聞いてみました。
「新しいものというか、見た人が何か意味を感じてくれるような作品を作りたいとは常々考えています。あとは、私は切子だけじゃなく吹きガラスもするんですが、島にそのための吹き場を作りたいなと思っています。専用の設備も必要だしいろんな人の力を借りることになると思いますが、そうやって少しずつ小豆島でできることが増えていくといいなと思っています」

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