アーティストたちが語る、アートだけじゃない豊島。 余韻ラジオ

島で暮らす写真家と、画家の腕を磨く若きアーティストに、アートだけじゃない豊島の魅力を聞いてみました。瑞々しい感性を持つ二人ならではの、島のきらめきを掴むコツとは。お話に登場したスポットは、しまれびマップからご覧いただけます。

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    島暮らしのアナウンサー

    まな

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    豊島在住

    北村 和也さん

  • 顔写真

    豊島在住

    ゆえさん

アーティストの目線で切り取られた島の風景がそれまで気づかなかった新しい魅力になる。

ひと目で魅了された、瀬戸内海を見渡せる壇山からの景色。

写真家の北村和也さんは、2024年の夏に豊島に移住しました。
「壇山の山頂からは瀬戸内海が一望できるんですが、はじめて登ったときすごく感動したのを覚えています。とくに山頂付近の岡崎公園という場所は、春になると桜も咲いてすごく素敵な場所なんです。しかも、景色がいいのにあまり人がいないから完全に無音になることもあるんですよ。関東にいたときを思い返すと、無音なんて経験したことなかったです」
静かな岡崎公園で景色を眺めながら考え事をする時間が好きだという北村さん。その景色も毎日違っていて、見ていて飽きないと言います。

「太陽の位置によっても印象が変わるし、ただ晴れているか曇っているかというだけではなく、湿度によっても見え方が違います。岡崎公園からは高松の街が見えるんですが、くっきり見える日もあれば霞んだようなときもある。海の色も、真っ青に見えるときもあればグレーがかっている日もある。同じ景色は二度とないから、何度でも写真に撮りたくなりますね」

見過ごされてしまう日常の小さなものに目を向けたい。

2023年の夏に1ヵ月半豊島に滞在し、その後2024年の春に本格的に移住したアーティストのゆえさんに、お気に入りの場所を聞きました。
「島の北側に豊島エスポワールパークという施設があるんですが、その先にあるカーブミラーの前に立つと、カーブミラーに海だけが映って見えるんです。カーブミラーの後ろは山。海と山が一度に見えるこの場所が最近のお気に入りです」

絵を描くため、常にいい景色やいい光がないかとアンテナを張っているというゆえさん。素敵な景色を見つけるコツは、どこにあるんでしょうか。
「太陽の位置を意識するといいと思います。たとえば夕方の太陽はオレンジ色の強い光で、そのオレンジ色の光のなかでガードレールに面白い影ができているとか、船に乗っているときも、真上からの太陽の光で波がきらめいているとか。あと、自然の光だけじゃなく、自然のなかにある人工的な光も面白いんですよ。真っ暗な夜道を自転車が走ってくると、そのライトに照らされた自転車のカゴがすごく大きな影を落としていたり、ガードレールに付いているオレンジ色の反射板が点々とはるか先まで連なっていたり。光の先に目を向けてみると、いつもは気にしないような景色が見えてくるんじゃないかなと思います」
敏感なセンサーでほかの人が見過ごしてしまう1シーンを切り取るゆえさんの絵。そのなかで印象的なのが、カニの絵です。
「私は新宿で生まれ育ったので、周りに生き物がいる生活をした経験がないんです。はじめて豊島に来たとき、カニがたくさんいるっていうそれだけですごく興奮したんですけど、島の人は全然気に留めていなくて、そのことにとても驚きました。私がカニに目を向けて絵を描いているのを不思議がっていて、それもおもしろいですね」

光の先に影がある、草が風に揺れる、カニが歩いている…そんな島の空気感のようなものが、ゆえさんの絵には表現されているようです。
「空気を描けたらいいなっていうのは以前から感じていたんですが、はっきり言葉にして自覚したのは豊島に来てからかもしれません。日々の空気、その日の湿度、そういうものを肌で感じるようになってから、“空気を描きたい”と言葉にしてはっきり考えるようになりました」

都会とはまったく違う、いわば異世界に来た感覚。

北村さんとゆえさんは、2人で合同展を開催したこともあります。そのときの印象を北村さんはこう振り返ります。
「ゆえちゃんの絵の切り取り方がすごく素敵で。こんな場所に目をつけるんだってびっくりしますね。島民でもどこかわからないような場所にフォーカスを当てていて、それを見てみんなが『あそこじゃない?』なんて盛り上がっているのが印象的でした」
ゆえさんは東京にいるときから、普段の生活のなかの何気ないものを拾い集めて絵にすることをテーマにしているそうです。
「自分の身の回りの小さなものを絵に描くことで肯定する、それでどんどん自分のいる環境を肯定していければいいなという気持ちがあります。豊島にいると、自分の絵に対してその場所を知っているとか、もっと詳しく語れる人もいて、すぐリアクションが返ってくる。そういう点で自分の創作のテーマに合っている場所だと感じています。合同展では子どもがたくさん来てくれて、『これってカニじゃない?』『ヤモリじゃない?』と素直な感想を言ってくれたことと、そうやって島の自然に興味を持ってくれたことがうれしかったですね」
北村さんも、島で写真を撮っていて印象的だったことがあると言います。
「豊島の集落のなかでウエディングフォトを撮っていたら、島のおばあちゃんたちが話しながらやってきたので、新郎新婦と一緒に写真を撮ったんです。ウエディングという特別な写真だけどすごく島の日常に溶け込んでいる感じがして、すごく気に入っています」

都会とはまったく違う、島だからこその環境は、創作にも影響を与えているようです。
「移住してすぐの頃は、ずっと非日常の世界にいる感覚でした。自然が豊かなのはもちろんですが、住宅や町の感じも都市とは全然違っていて、まるで異世界だなって。島には広告の看板がほとんどないんですよ。都市にいると広告をはじめいろんな情報が無意識に入ってきますよね。島にいるとそういう雑多な情報がない分、自分にフォーカスする時間が増えたと思います」
瀬戸内の離島という環境で、感覚を研ぎ澄ませながら創作に取り組む2人のアーティスト。これからどんな島の景色を切り取って見せてくれるのか楽しみです。

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